十人十色詩

作者の日常を綴ったもの。小説やゲームなどの話題あり。
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HITなしだ、なう

 グレンラガンでお題小説です。
 カミナ、シモン中心です。ネタバレ含みますので、ご注意を。
※2017.9.24.コンプリートしました。


 溺愛ロジックより 哲学かぶれてみる20のお題から

 01.この世は。
 感じる者には喜劇であり、信じる者には悲劇である。


 02.白に黒が混ざれば穢れるのは自明の理。
 では。
 黒に白が混ざればそれは果たして浄化と言えるのだろうか。


 03.天が地を支えるのか
 それとも地が天を支えるのか


 04.良識はこの世で最も公平に分配されている。
 なぜなら、誰もが皆自分は十分な良識を備えていると思っているからである。


  05.天才は世界を自分の内から作り上げ
 英雄は世界を自分の内へと作り入れる


  06.この世は。
 この世は、真理と心理で動いている。


 07.人間とは食うところの存在である。

 08.生きることは病気だ。
 睡眠は一時しのぎの薬。
 死こそが最高の治療法!


 09.騙すか騙されるかは選択であるが、
 第三の道があると信じる者は自分を欺いているに過ぎない。


 10.臆病者は危険の前に、
 意気地無しは危険の最中に、
 勇敢な者は危険の後で、怖がる。


 11.女無しでいられぬ男は何やかやと苦労する。
 女無しでいられる男はあれらこれやと苦労せずに済む。
 女無しでいたがる男となると、この世では大して役立たぬ。
 苦労人、苦労知らず、役立たず。
 女というものさしをあてると、この世にはたった3種の男しか存在しない。


 12.人が自分の運命に出会すのは、
 運命を避けようとしてとった道の上であることが多い。


 13.0は1を生み、1は2を産んだ。
 そして無限になった。


 14.天命を俟つのみと諦めていることでも、
 人事を尽くしていないことは良くあるものである。


 15.誰も彼も助けることなどできやせぬと狭量な者は言い、そして誰も助けない。

 16.そう、手段の悪を目的の清らかさで正すのです。

 17.弱者は常に正義と平等を欲するものだが、強者はそのどちらも意に介さない。

 18.世故に長けているとは、
 あらゆる物事をできる限り重視しながらどれも完全には真に受けないことである。


 19.幸福。
 それは間近に迫る喪失の恐れ。


 20.男は決まって女の最初の恋人になりたがるが、女は男の最後の愛人であることを望む。



 04.良識はこの世で最も公平に分配されている。
 なぜなら、誰もが皆自分は十分な良識を備えていると思っているからである。

 地下世界で、穴を掘り続けるゴーグルの少年。
 モグラのブータと一緒に、未知へと探索しながら。

(掘って、掘って、掘りまくって……。
 おれは、光のない地中を潜っている……)

 ドリルで豪快に開け、希望のない地中を目指し――眩しき埋もれる光へ堕ちていく。

 青白い光に映る、顔のある機体。
 ゴーグルの少年が落下すると、ハッチが開いた。
 コックピットに衝突し、呻き声を上げることになった。

 繊蜜に造られた、古の機体。
 操縦席の前に、鍵穴のような跡があった。
 それは、ドリルを象徴としたものであった。

 ゴーグルの少年は魅入られ、身につけていたペンダントのトップに触れた。
 ミニチュアタイプのドリルの先端を入れ――恐る恐る回した。

 鈍く重い。騒々しい物音。顔面の機体は、地を突き抜け――青空を越えた。
 
 暗澹の闇から、澄み切った光に色彩へと変わる。
 唐突に変貌する視界に、ゴーグルの少年の目は細まる。

 清々しいほどの快晴。地上の世界へ飛び出す、機体内にいるゴーグルの少年。
 勢いよく堕ちていき――地下世界の村へと埋め尽くされる。

 クレーターが生まれ、身動きできないくらいにハマり切った顔面。
 突然の出現に、サングラスの青年はおろか、その場にいた村人たちも唖然としていた。

 天を差す、太陽の光に導かれ、ハリボテの異形が堕ちてきた。
 顔面の数メートル先に、衝突していった。

 その上に、舞い降りる赤毛の女。ライフルを構え、発砲し続ける。
 貫通することがなく、弾き返されていた。

 赤毛の女はハリボテの機体を蹴り、四メートルくらい距離を置く。
 見据える瞳は、意志の強さと信念の強さを表す。

 戦闘態勢を解かない彼女に、サングラスの青年は口笛を吹く。

「お。良い女だなーー」 他人事のように述べていた。



 08.生きることは病気だ。睡眠は一時しのぎの薬。
  死こそが最高の治療法!

(ああ……喉、乾いた……。 水、飲ませろ……)
 カミナは、猛暑の大地を忌々しく思っていた。
 草や花がなく、見渡す限り、地平線なフィールドを。

 ここ、まじ、砂漠だぜ……。 頭から顎まで、汗だくになっている。
 湿った装備品が皮膚に張りつき、臭いが充満する。

 理不尽な気温上昇に、カミナは苛立ちがあった。
 ふて腐れた顔で、隣のヨーコを見やった。
 健康的な肌を魅せつける、若き赤毛の女を。

「おい、デカ乳。てめえ、済ました顔をしてるんじゃねえよ。
 そんなエロ姿で、俺様を熱くさせるんじゃねえよ。
 それと、何か? ――俺様を誘っているのか?」

 セクハラ紛いなコメントに、彼女の回し蹴りが容赦なく放たれた。
 カミナの背中に当たり、前のめりに倒れ込んだ。
 枯れ果てた大地にキスをする、顔面衝突の青年がいた。

「――これで、冷えたでしょう?」 ヨーコは彼を見下ろし、微笑んでいた。
 その目は、完全に笑っていなかった。
 オドオドしているシモンを引き連れ、彼女は歩行し始める。

「あ……兄貴……!?」
 時々、後ろを振り返るシモンに、ヨーコは当たり前のように発言する。

「一度、死んでみればいいのよ。あの“単細胞馬鹿”は。 
 シモン。あーーいう“単細胞馬鹿”になっては駄目よ。
 “単細胞馬鹿”が移るから」

 酷く強調し、助言する彼女に、カミナの猛反発がこだまする。

「何だと、てめええええええっ!
 てめえこそ、その身なり、どうにかしやがれええええええっ!」



 10.臆病者は危険の前に、意気地無しは危険の最中に、
  勇敢な者は危険の後で、怖がる。

「いやだああああああっ!」
 シモンは大絶叫を上げ、ラガンを操作し、獣人どもへ転がっていく。
 ボーリングの如く、転がり、ストライクをする。

 四方へ飛ばされる、獣人たち。
 地上へ叩きつけられ、大爆発を起こす。

「シモーーーーン! ナーーーーイス、ショットだ!」

 カミナは喜びのある声で、弟分を誉め出す。
 グレンを乗る彼としては、弟分の成長する姿が嬉しく、自慢でいっぱいだ。

「あんなものは、攻撃のうちに、入らないでしょう?」
 ヨーコはライフルを構えたまま、獣人数名へ発砲している。
 泣きじゃくる、金切り声による悲鳴。一目散に、逃走していく。

「おやぶううううううんっ! 助けてくだせええええええっ!」
 獣人一匹が逃げながら、助けを求めていた。

「……あ? 親分?」 カミナは柄悪く、問い返した。
 重い音を立てる黒き影に、視線を向けていく。
 グレンより強大な、グレンに近い存在が、彼の前にいた。

 渾身の鉄拳が、グレンの胴体へと突き出す。
 大地へワンバウンドをし、背中ごと衝突した。
 コックピットに衝突させる、カミナ自身の姿があった。

 一瞬、彼の息が止まった。あとから、背の痛みがやってくる。

「ぐうっ……! こ……これは、やべえかもっ……!」
 己に攻撃した相手に、恐怖を感じた。



 15.誰も彼も助けることなどできやせぬと狭量な者は言い、そして誰も助けない。

 ガンメンに押され、後ろのめりに倒れ込む。
 押しつぶされる寸前。カミナの目に映るものは、白骨死体だった。

 キャプテンハットに、船長服という出で立ちのもの。
 赤マントが荒々しくなびかせ、天へ舞い上がっていく。
 そして、白き手首には――骸骨を象ったブレスレットがあった。
 それを目の当たりにした、カミナの心臓が激しく打つ。


 幼きあの日。カミナの手を引き連れる、船長の男がいた。
 見上げる少年の頭に手を乗せ、くしゃくしゃにして撫でる。
 骸骨のブレスレットが煌めくのを、少年の目に焼きついていた。
 腕を下ろし、船長の男は口元を広げて。

「――良い子に、しているんだぞ。カミナ」
 赤マントを翻し、地平線の向こうへ歩く姿を――。


「お……やじっ……!?」
 呆然と凝視するカミナに、ガンメンのけたたましい笑い声が響く。

「シネ! シーーーーネ!」
 おしくらまんじゅうをし、グレンの周りにクレーターが生まれていく。
 重力に押されつつも、カミナは歯を食いしばる。

「俺は……死にたくねえ……」
 彼の目線が、白骨死体に釘付けのままだった。
 やり場のない怒りを吐露する。

「……俺は……親父のように……なりたくねええええええっ!」

 魂の絶叫とともに、膝蹴りがガンマンへ命中した。
 前のめりとなり、倒れる様に、彼は次の手を打つ。

「男にはやらねばならんことが、あるううううううっ!」
 グレンを操作し、背中へトスした。
 地へ這いつくばるガンマンに、カミナの叫び声が来る。

「どんな困難でもっ!」 踏みつけ。
「どんな苦難でもっ!」 蹴り上げ。

「男というものは、立ち向かっていくんだああああああっ!」

 空中状態のガンマンに、グレンの右ストレートが放った。
 吹き飛ばされ、地に引きずられながら、仰向けとなり動かない。



 07.人間とは食うところの存在である。

 ブータが差し出す、一部の血肉。ちぎれたお尻部分。
 シモンはそれを半分に切り、カミナの口へ放り投げた。

 腹ぺこ状態だった、兄貴分の口内へ含み――目を輝かせる。

「んっ!? これ、マジうめええええええっ!」
 まいうー状態になった彼が、涙を流し、感激に浸っていた。

「よーーーーし、グレンラガン!
 お前の正義の鉄拳で、奴をぶん殴るんだっ!」

 完全復活を成し遂げ、上機嫌&ハイテンションな青年。
 グレンラガンが突進し、目の前の敵を殴りつけた。

 吹き飛ぶ機体。天へ昇り、爆発を起こした。
 煙とともに、荒れ狂う火炎に、二人は緊張を解いた。

 カミナはシモンに向けて、素朴な問いかけをする。
「あれ、おいしかったなあ。あの干し肉、どこで貰ったんだ?」

 自分のことを耳にしたのか。ブータは少年の懐へ潜り込んだ。
 深々と潜り、皮膚をくすぐっていく。
 視えない獣のブータに対し、申し訳なさそうに。

(ごめん、ブータ……) 自分のために、自らの一部分を捧げる。
 優しさのある、犠牲的な行為に。

「シモン?」 何も知らない兄貴分に、シモンは笑ってごまかす。

「あははっ……。 出発する前に、ドレンから貰ったんだ。
 ほんの一切れしかない、大事な食料をさ……」

 地中世界たる、穴掘りの隠れ里。
 彼の昔馴染みといえる、穴掘り団のぼさぼさ少年。
 カミナは思い出し、他人事のように話す。

「ああ、あの洟垂れ小僧な。今頃、何やっているんだろうな」



 19.幸福。それは間近に迫る喪失の恐れ。

 世界を揺るがす、大地震。幼き少年は、父と母に手を伸ばす。
 その期待を応えようとして――両親の手が、届かなかった。

 二人は奈落の底へ堕ち、幼き少年は恐怖し、泣きじゃくった。
 何度も“父さん、母さん”と叫び、己も堕ちる様があった。

 天は地をあざ笑い、地は天を助けを求める。
 噛み合わない歯車と、噛み合わない二つの器。

 自然の限界すら、突破できない。酷使できぬ、ヒトという生き物。
 世界の崩壊に――太刀打ちできない。


 シモンは不安そうに、俯いていると。

「――シモン、俺様は死なねえよ。
 俺様は、この世に生を受けた天才なんだからな」

 カミナは大笑いをし、彼の頭を撫でていく。
 そして、誇らしげに、前を向ける。

「あの先に、俺たちが求めるものがあるんだ。
 気合いを入れようぜ、兄弟」

 カミナは自信満々に言い放ち、地上を前進し始める。
 生温い風が、身につけたマントをなびかせていく。
 シモンは顔を上げ、彼の後ろ姿を眺める。

「……兄貴が言うんだ……。
 おれがあきらめて……どうするんだ……」

 自分に言い聞かせ、彼は小さな足で、兄貴分の元へ駆け出した。
 肩を並べて、旅を続けていた。



 01.この世は。感じる者には喜劇であり、信じる者には悲劇である。

 ロシウは、ガンメンに強い憧れを抱いていた。
 神として崇められ、50人収容の地下村を守ってくれると。

 差し込む光に、永き眠りのガンメン。
 廃れ、埃だらけのものに、ロシウの手が触れる。
 ざらつき、丁寧に払っていると。

「――そこで、何をしている?」
 ロシウが振り返れば、神父が険しい顔になっていた。
 聖書を片手に、彼を見据えている。

「……いえ」 その場から離れ、彼は立ち去ろうとする。

「お前は――ガンメンに乗りたいのか?
 もし、そのような想いを抱いているのならば、やめておけ」

 引き止められた言葉に、恐れと疑念が絡まっている。
 批判的にも思える、神父の台詞だ。

 ロシウは足を止め、背を向けたまま。
「私は……安易なことをしません」

 声を押し殺し、立ち去っていく少年の後ろ姿。
 神父は目を細め、自嘲な笑みに変わる。

「……嘘をつくな。お前の胸には、渇望が秘めているのだろう?
 この世に疑問を感じ、外への希望を求める……」

 ガンメンを見つめ、ロシウが触っていた場所を優しく撫でる。

(神の使いがこの地下村にやってきた時点で、お前の運命は決まったものようだ。
 ロシウ。お前はこの村の掟に、歯がゆい想いをしている)

 深き愛情を身に宿し、愛おしくガンメンを撫で続けている。
 柱の影に身を潜めているカミナは、目つきを悪くした。
 神父に対し、悪態をつける。

「……けっ。嫌な爺だぜ」



 03.天が地を支えるのか
 それとも地が天を支えるのか

 グレンラガンは、指に挟んだドリルを投げつけ、大地を蹴り続ける。
 逃げまとう正義のヒーローに、ガンメン二体が追跡していく。
 崖の上に急速停止し、グレンラガンは背後を振り返った。

「もう、逃げられないぜ」 「かーーーーかっかっかっ! ゲーム・オーバーだなっ!」
 ヴィラルは邪悪な笑みをし、その隣の戦艦内にいる影の男は高笑いをしていた。

 追い詰められていても、シモンはめげなかった。
 逆に、不敵な笑みをする。

「そいつは、どうかな?」 逆光を浴びる、グレンラガン。
 その先に存在する、ヴィラル率いるガンメンらの周辺。
 円を描いた、無数のドリルの痕があった。
 地響きを立て、足元が崩れていく。

「カミナ、貴様ーーーーーー!」
 ヴィラルの怒りの絶叫ともに、彼らは真っ先に堕ちていく。

「俺じゃねえよ」 カミナは腕を組み、冷静に応えていた。
 巨大穴に雪崩れ込むガンメンたちを、彼は見下ろしている。
 彼はシモンのほうへ振り向き、サムズアップをした。

「さすが、穴掘りシモンだな」
 白い歯を魅せる彼に、少年は頬を染め、照れる仕草をしていた。

 崩れ去った奴らの跡の向こうに、グレン団が待っていた。
 巨大穴を避け、シモンはグレンラガンを操縦していた。


 グレンラガンから降りた二人は、大勢の仲間に取り囲まれた。
 数名から十数名以上になっているのを、シオンは動揺を隠せない。

「いつの間に……。 グレン団が、こんな大勢に……!?」

 彼の目の先に、見覚えのないガンメンが三体あった。
 持ち主がそれぞれ、機械の足に触れれば、うっとりとする。
 ヨーコは横目で見やり、呆れ交じりな声で。

「カミナが奪い取ったガンメンを見て、真似したくなったんだって」
 彼女の答えに、当の本人らは大笑いをした。

「真似……たってっ! 貰ったんだよっ!」
「カミナばっかりじゃあ、つまんねえしなっ!」
「正義のヒーローは、俺たちも含むんだよっ!」

 どっと。再び、笑い出す仲間たち。
 カミナは口元を緩め、シモンの体を引き寄せた。

「兄貴……?」 兄貴分に引っつく形になり、彼は茫然としていた。

「お前がいねえと、俺はどうしようもねえよ」
 本心を述べ、己の前へ連れ出し、カミナはグレン団に目を向けた。

「仲間が徐々に増えてきた……。 少人数から大多数にな。
 俺たちはグレン団じゃねえ。大グレン団だっ!」

 大グレン団のリーダーとなった彼に、口笛と拍手が交えていた。



 20.男は決まって女の最初の恋人になりたがるが、
 女は男の最後の愛人であることを望む。

 輝く満月の下で、カミナは背を向け、胡坐をかいていた。
 彼の後ろ姿に、ヨーコは憂い顔になる。

「……カミナ。もう、無茶はやめて。
 みんなを引っ張っていくあなたを……失いたくないの」

 近くて遠い、二人っきりの距離。
 満月の光が否応なしに、輝きを放ち、疎ましく眩い。
 カミナは背を向けたまま、俯き、自嘲気味になる。

「……俺はな、ヨーコ。
 あいつらのためなら、俺は前へ突き進まなければならねえ……。
 “奴ら”が侵略をあきらめるまでは、逃げずに戦う……」

 彼の脳裏に焼きつく、偉大なる父親の最期。
 白骨死体となり果て、みずぼらしくなったもの――。

 ヨーコはカミナに向けて、押し殺すような悲痛な叫びをする。

「……だからって、無茶な行動をしないでっ……!
 あなたがいなくなったら、誰がみんなを引っ張るのよっ……!?」

 シモンたちにとって、彼は大事な存在であり家族でもある。
 ヨーコにとって、彼は心の支えでもあり、大事な存在以上の男でもある。
 彼を失えば、心が脆くなり、絶望によって折れてしまう。

「死なねえよ。俺様は、この世で天下一のカミナ様だ」
 カミナはそう言い切り、ヨーコのほうへ振り向いた。
 不敵に笑う姿は、不安を吹き飛ばす力がある。
 切り開く彼の瞳に、力強い意志と信念が備え持つ。

「ヨーコ。俺はお前を置いて、死なねえよ。
 だから、お前も死ぬんじゃねえぞ。ただでさえ、防御面が低いからなあ」

 ヨーコの自慢げな胸を指さし、カミナは豪快に笑う。
 白い歯を見せ、自信満々になる大グレン団のリーダーに、彼女は鼻で笑う。

「言ってくれるじゃない。この脳筋単細胞馬鹿。
 あたしは、そんなやわじゃないわよ」

「やっと、てめえらしくなったなあっ!
 それでこそ、俺の女だっ!」



 11.女無しでいられぬ男は何やかやと苦労する。
 女無しでいられる男はあれらこれやと苦労せずに済む。
 女無しでいたがる男となると、この世では大して役立たぬ。
 苦労人、苦労知らず、役立たず。
 女というものさしをあてると、この世にはたった3種の男しか存在しない。

 黄金色の星星を眺め、シモンはラガン内で寝転んでいた。
 夜空を見上げる少年に、湯気のある飲み物を差し出される。
 彼の顔が横に向けると、ヨーコが立っていた。

「はい、シモン。あっつあつのホットミルクよ」
 目が笑い、口角も上がる。柔らかい笑みの彼女に、シモンの頬が染まった。
 起床し、ホットミルクを受け取り、口に含む。
 確かめもせず、飲んでいるためなのか。舌が焼けつくほど熱い。

「あつううううっ!」 シモンは大げさに舌を出し、涙目になってしまう。
 ホットミルクがこぼれ、ラガンの機体に飛び散っていく。
 シモンは慌てて、近くにあった布切れを掴み取った。
 飛散した液体を、豪快に拭き取っていく。

「あーーあ。あっつあつのホットミルクって、言ったのに」
 呆れ交じりのヨーコに、彼は見向きもしない。
 一生懸命、ラガンを拭き続けている。

 ヨーコはラガン内に残された、飲みかけの飲料水を取った。
 ハンカチに水を染み込ませると、牛乳臭さのある機体を拭き始めた。

 丁寧に拭く彼女に、シモンは上目遣いで見つめる。

「……ヨーコ?」 「そんなんだと、錆びてしまうわよ」
 ハンカチに何度も水を含ませ、力を込めながら拭いていく。
 真剣に作業を行うヨーコの横顔に、シモンは恥ずかしそうに俯いた。
 顔を上げず、うずくまる。


 彼女の笑顔、彼女の気遣いによる優しさ。
 彼女の凛とした表情、彼女の勇ましい戦い方――。


 想い描く、シモンの淡き初恋。
 二人っきりになっている状況で、彼は内気になる。
 そんな彼の頭を、繊細な手が撫でられる。

「そこが、かわいいんだけどね」
 優しい手つきをする赤毛の女に、彼は悶絶していた。

 ほのかな想いを抱く彼と、彼の初恋の相手でもあるヨーコ。
 いつまでも、幸せであると願いながら――だが。


 夜空の下で、向かい合うカミナに、ヨーコの積極的なキス。
 背中に両腕を回す彼女に、ふいに男の顔になる兄貴分。
 彼女を抱きしめ、受け入れていた。

 濃厚な接吻をし続ける二人に、シモンは背を向け、勢いよく走り出した。

 心臓が破裂するほど、脈を打っていた。
 歪んだ顔つきで、明かりのある星くずの真下の路を、彼は駆け出していく。

「あら、シモン? どうしたの?」
 リーロンは怪訝そうな表情で、シモンを見ていた。
 しかし、会話するわけでもなく、彼の横を通り過ぎていく。
 そして、誰もいない中で、走り続ける。

「うわああああああああああっ!」
 シモンの嫉妬深さによる、叫び声。
 情けなさのあまり、兄貴分を乗り超えられない。彼の絶叫でもあった。



 02.白に黒が混ざれば穢れるのは自明の理。
 では。黒に白が混ざればそれは果たして浄化と言えるのだろうか。

 薄暗い、曇り空。大勢のガンメンが出撃する中で、カミナはしみじみと。

「たまんねえな、シモン。
 村を出たときには、俺たちしかいなかったグレン団……。
 これだけのダチがいれば、獣人たちに立ち向かうことができる」

 シモンの上に乗るブータも、同意して鳴く。

「ブータも、だって」 「そうだったな。二人と一匹のグレン団だったな」
 少年の言葉に、まんざらでもなく嬉しそうな青年。

 突如、咳払いをする女が一人。マシンに乗った、ヨーコ。
 カミナに対して、水をさす。

「あたしもいたんですけど。
 あんたたちが村から出たとき、あたしも一緒だったわよ」

「そうだったっけ?」 カミナは怪訝そうな表情で恍けていた。
 過去を振り返ようと思い出すものの、思い当たるところが見つからない。

「覚えてないの?」 ヨーコの口調に、僅かな甘えが含まれている。
 求める彼女に、カミナの心臓がどきりとしつつ。

「そのときは、ヨーコはグレン団じゃなかったんだよ」
 歯切れの悪い答え方をしていた。
 気持ちを悟られないよう、平常心を心がける男でもあった。

「何よそれーー」 不服を申すヨーコに、周囲の豪快な笑い。

「丸聞こえだぞ、ヨーコ」 「通信回線は、オープンなの」
「魅せつけんな、リア充」 「甘いムードは、闘いが終わってからにしてくれ」

 からかいのある、仲間たちの声に、彼女の顔が真っ赤に染まった。
 口を金魚みたいに、パクパクとさせ、喉奥から掠れた悲鳴を上げている。
 恥ずかしさのあまり、何も言えずにいると。

「それだけ余裕があれば、大丈夫だな。この闘い、勝てるな。
 そうだろう? カミナ?」

 キタンの口元が緩み、ライバルの男に尋ねていた。
 彼自身、大グレン団のリーダーを信頼している故にだ。

「会ったり前だっ! 俺を誰だと思ってやがるっ!」
 躊躇わない、自信満々に述べる兄貴分。
 その一方で、シモンは両目をきつく閉じ、己に言い聞かせる。

(余計なことを考えるな。今は、目の前のことに集中しろ――)

 火山が噴火する中、ヴィラル率いるガンメンたちが現れた。
 巨大な船をともに出現したのを見計らって、カミナはシモンに指令を出す。

「シモン! あの船をぶんどってやろうぜっ!」 「うんっ!」
 一気に飛び出す弟分と同時に、兄貴分の命令が下りる。

「行っけええええええええええっ!」 『おおおおおおおおおおうっ!』
 シンプルな合図に、大グレン団の仲間たちが戦闘態勢に入っていく。
 それぞれが飛翔し、敵陣へ出撃する。

 地上には、ヴィラル率いるガンメン集団。
 そのリーダー核の彼は、ニヒルな笑みを浮かべていた。
 大グレン団に向けて、発言をする。

「待っていたぞおおおおおおっ!
 貴様らが、接近してくるのを待っていたああああああっ!」

 瞬間、乱射の嵐が、大グレン団に襲いかかる。
 その光景に、カミナの口角が上がる。

「――そう来ると、思っていたよ」
 グレンが手を上げた刹那、次々と岩が落ちていく。

 押しつぶされ、戦闘不能になるガンメンたち。
 それを目の当たりにしたヴィラルは驚き、戸惑う。

「い……岩だと!?」 破壊され、爆発をするものたち。
 見上げる彼らを、リレーの如く受け渡し、岩を投げ捨てる大グレン団がいた。



 18.世故に長けているとは、
 あらゆる物事をできる限り重視しながらどれも完全には真に受けないことである。

「くそうっ! 野蛮な人間どもがっ!
 拳を一つ、交わせないのかっ!?」

 悪態をつけ、正々堂々と訴えるヴィラル。
 敵にして、純粋な持ち主である。
 そんな訴えを、カミナはへったくれもなく。

「この岩が俺の拳だっ!」 正義の味方らしからぬ、悪人な男だった。

「――ならば、こうしてくれよう」 海賊船の手が動き出し、ヴィラルの機体を掴んだ。
 天へ放り投げ出され、カミナのほうへ近づいていく。

 振りかざすヴィラルに、彼は真正面で受け止めた。
 斧の刃とカッターの刃が擦れ合い、一歩も譲らずにいる。
 お互いに、けん制しようと、威嚇し合う。

「カミナ! 俺の兜を返してもらうぞっ!」 「まだ、言うかっ!」
 いがみ合う二人は、引かず、隙を狙っている。
 ヴィラルは違和感がし、絶句をした。動揺する声が漏れる。

「き、貴様……。 頭はどうしたっ……!」
「あ? それなら、とっくにいるぜ――“あそこ”にな」

 機体をその方向へと、少し振った。
 海賊船へ降り立つドリル。物凄いスピードで、操縦付近へ突き抜ける。

「……一体、何をしたっ……!?」 「合体したんだよ。海賊船とな」
 ヴィラルの驚愕に、カミナは喜々ある声で答えていた。

 淡き緑の螺旋が、海賊船から浮かび上がる。
 それを横目で見たヴィラルは、敵対している男に疑念を。

「……貴様は、始めからそのつもりだったのか?」

「ああ。割とな。ついでだから、言っておく。
 あれを奪い取って、退散するという目的をな」

 カミナは悪びれた様子もなく、平然と話していた。
 無鉄砲さの彼ではない。策士の彼でもある。
 ヴィラルは唸り、彼への怒りをあらわにさせる。

「カミナ、謀ったなああああああああっ!」
 乱心に斧を振りかざす、白きガンメン。
 斬りつけようとする敵に、カミナの不敵な笑み。

「ああっ! 謀ったよっ!」 刃を受け止め、カウンターを披露する。

「俺たちの運と、男の度量がああああああっ!」
 機体に二、三回斬りつけ、彼は攻めを続けていた。

 ヴィラルは斧でガードをし、端正な顔立ちが歪む。
「こいつっ……!? 腕が上がっているっ……!?」

 押し出すグレンの背後に、黒い影が躍り出た。
 攻撃を仕掛ける前に、瞬足の弾丸により、打ちのめす。
 
 緑のガンメンは吹き飛ばされ、割れた崖へ堕ちていく。
 カミナは一瞥し、それから、頭上の相手を褒める。

「――良い腕をしているじゃねえか」

 銃口が、煙を吹いていた。ライフルを構えながら、ヨーコは弾を補充する。
「――約束したからね。あんたの後ろは、あたしに任せるって」



 14.天命を俟つのみと諦めていることでも、
 人事を尽くしていないことは良くあるものである。

 敵味方交えた、激戦の乱。
 それぞれが精いっぱいな中で、凶弾が仲間に当たる。

「何するんだよ、シモン!」
 抗議をする茶髪の青年に、シモンの表情に焦りの色を魅せる。

「ごめんっ! わざとじゃないんだっ! 上手く、動かせなくてっ!」
 ラガンと海賊船の合体に成功したものの、暴走をし始め、操縦ができない。

 ラガンの映像に、カミナの憤慨する姿があった。
「どうした、シモン!? 何をやっているっ!?」
 
 シモンは慌てて、レバーを上下に動かす。
「わかっているっ! わかっているんだけどっ!」


 黄金色の星星。その夜空の下で、ヨーコの接吻を受け入れる兄貴分。
 両腕を、背中に回す彼女に、男の顔を魅せる兄貴分。
 彼女を抱きしめ、受け入れる兄貴分――。


 嫉妬による、精神のアンバランスのせいなのか。
 ラガンと海賊船のシンクロが、成り立たない。
 シモンの心が揺れ、動揺を隠さず。

「……何で、だよ。何でだよおおおおおおっ!
 何で、こんなことで、集中できないんだよおおおおおおっ!」

 弟分の不調に、ヴィラルは残忍な笑みをした。
「爪でしくじったな、カミナ」

 ぞろぞろと、海賊船に乗り込むガンメンたち。
 そのあとを追いかけようとするヴィラル。
 その行く手を遮る、高速回転のカッター。
 ぶつかり、地へのめり込んでいく。

「てめえは、行かせねえっ!」
 戦士の顔つきを変える、大グレン団のリーダー。
 背を向け、目指すのは――ラガンのいる海賊船。

 迷いなく、突っ走るグレン。飛翔し、海賊船に着陸した。
 操縦付近に乗り込み、カミナはコックピットから飛び出した。
 前のめりに転がり、ラガンへ到着する。
 ハッチが開かれ、シモンの上に乗っかった。

 唐突に、突如、出現した兄貴分。
 シモンは茫然と、彼を見上げる。

「兄貴……!?」 「――歯を食いしばれ、シモン」

 彼による、渾身の右ストレートがきた。
 頬にまともに食らい、頭と背中に衝突した。
 シモンは呻き、おぼろげに、カミナを見上げる形になる。

「――目、覚めたか? お前が迷ったら、俺が殴りに来る。
 お前には、この俺がついている。
 俺を信じろ。俺を信じる、お前を信じろ」

 サムズアップをし、不敵に笑う。
 見下ろし、諭す彼の言葉に、シモンは我に返った。
 情けないくらいに、小さな声で応答する。

「……わかったよ、兄貴……」

 満足そうな顔になり、カミナはグレンへ戻っていく。
 コックピットに居座る彼の真下に、青白い光が放出していく。
 グレンを突き抜け、カミナをも突き抜けていく。
 サングラスが破壊され、彼自身を傷つけていく。

「ぐああああああああっ!」 曇り空へ吹き飛ばされ、大爆発を起こした。
 傷だらけとなり、堕ちていくグレンに、銀のガンメンが現れた。
 血まみれとなったカミナに、強大な槍が突き刺した。
 急所が貫通し、彼の苦痛の絶叫を上げる。

「うわああああああああっ!」



 13.0は1を生み、1は2を産んだ。
 そして無限になった。

「兄貴ーーーーーーーーーー!」
 シモンの叫び声とともに、淡い緑が海賊船を覆い尽くした。
 ガンメンたちが外へ放り投げだされ、自然消滅をしていく。
 割れた大地が、輝く光に埋め尽くされ、火山の暴走が始まった。
 乱射する敵をよそに、海賊船は前進していく。

 カミナの意識は、朦朧としていた。
 頭から血が流れ、胸には突き刺された跡が残っている。
 意志のある瞳はすでに霞み、生気のあるものでない虚無であった。

「……おちおちと……寝ていられねえな……」
 両手でつき、致命傷の体を起こす男。
 その都度、血が噴き出し、吐血をする羽目になる。

「……持ってくれよ……。 俺の……体……」
 カミナの前に、項垂れるラガンがいた。彼はそこ目がけて、拳を放った。
 ぼろぼろと化した左腕が、ラガンに命中し、よろけていく。

 映し出される景色の中で、左腕を失くしたグレンの姿があった。
 左目に滲み出る血を顧みず、カミナは弟分のことを語る。

「……シモン。お前、自分を誰だと思っている……。
 お前のドリルは……天と地と明日を貫く……ものだ。
 こんなところで……何をもたもたしている……」

 ラガンの中にいるシモンは復活し、涙を浮かべている。
 生きている喜びに、歓喜あまりに。

「そうだね、兄貴!」 少年に活力が戻ってきた。
 みなぎる力により、ラガンが作動していく。

 手下を引き連れる、銀のガンメン。
 シモンたちのいる海賊船に、襲撃してくる。

「シモン! 合体だっ!」 「うんっ!」
 カミナの命令に、シモンは彼の元へ急いだ。



 12.人が自分の運命に出会すのは、
 運命を避けようとしてとった道の上であることが多い。

“良いか、シモン。忘れるな。
 お前を信じろ。俺を信じるお前でもない。
 お前が信じる俺でもない。お前を信じる、お前を信じろ――”

 土砂降りの雨に濡れ、泥まみれになるシモンの身体。
 亡きカミナの言葉を思い出し、憂鬱となっていた。
 壊れた心が、少年の表情に影を落とす。

 ふいに落下する、金属の箱。目の前に出現され、シモンは恐る恐る近づく。
 ドリルの穴があり、ペンダントのトップで回し始める。

 箱が開かれ、白き煙が周囲を覆う。
 その中に――花に囲まれて眠る少女がいた。
 気がつき、起床し、シモンに挨拶をする。

「ごきげんよう」 「ご……ごきげんよう」
 銀髪の少女に対し、彼は言葉につまる返しをした。

「あなたは、どなた?」 眠りから覚醒されていないのか。
 瞼が半目であり、見つめる少女は首をかしげている。

「ど……どなたって……。 そんな立派なものじゃないよ……」
 シモンは慌てて手振りし、彼女に説明をしている。
 彼女は笑顔になり、辺りを見回す。

「わああっ。ここは、外なのですねっ」
 呑気に言い、空を見上げる。暗黒の雲が覆い尽くし、晴れることがない。
 土砂降りの雨を、銀髪の少女は両手を上げる。

「これが、雨?」 その表情に、喜びと楽しみが備え持っている。
 彼女は箱に乗り、色白な長い足があらわとなる。

 シモンは頬を染め、彼女から逸らす。
 恥ずかしそうにする少年に、彼女は嬉しそうに話す。

「ああ、冷たい。これが、土?」 問いかける声に、シモンは振り向いた。
 裸足で大地を踏む、銀髪の少女がいた。
 泥がつき、汚れる彼女に、シモンは心配そうになる。

「そうだけど……良いの? そんな裸足で?」

 彼女は目を閉じ、大地を踏むのを楽しむ。
「冷たくて、ドロドロしていて、ねちょねちょしていて……気持ち良い」

 天使のように美しい、銀髪の少女。
 シモンにとって、高嶺の花であり、穢すのを恐れた。

「気持ち、良いの……?」 「ん」
 問い質す彼に、銀髪の少女の返答はそれだけだった。
 彼に接近し、顔に手を添えた。不思議そうな眼差しで、疑問点を。

「なぜ、あなたは私と同じなの? 尻尾もないし、牙とか鱗もない。
 それに……肌も柔らかい」

 触れ合うほどの、至近距離。
 顔を近づき、優しく撫でる銀髪の少女に、シモンの顔が真っ赤になる。

「そりゃそうだよ。おれは人間だもの」 「にんげん……?」
 怪訝そうな表情になる彼女に、シモンは肯定をする。

「そうだよ。人だよ、人」 その言葉に、撫でていた手が離れていく。
 シモンを見つめ、少女は再び、質問をする。

「ヒトって……何ですか?」 「人って言ったら……おれたちみたいな」

 脳裏に浮かび上がる、カミナやヨーコ、大グレン団の仲間たち。
 種族とか考えることがなく過ごしていた、あの頃。
 兄貴分の悲劇さえなければ、少年は――。

 紫色の光の筋が、複数、二人を照らしていく。
 雨が止むと、シモンは靴を脱ぎ始めた。
 銀髪の少女の足元に置き、気遣う。

「これでも履いてて。裸足では、歩きにくいと思うから」



 06.この世は。この世は、真理と心理で動いている。

 海賊船にて、銀髪の少女――ニアは、笑顔でシモンに接する。
「兄貴って、一体、誰なんですか?」

 入道雲が過ぎ去り、天の下で、二人きり。
 お互い、肩を並べて、過ごしていた。

 シモンから今までの話を聴き、ニアは憂いそうな顔つきで。

「……そうだったの。この前の闘いで……。
 それでは、“私”はシモンたちに憎まれても仕方がありませんね……」

 それ以上、何も言わず、金属製の手すりを手に添えた。
 腰にかかった銀髪が、そよ風により流れていく。

 ニアは両目を閉じ、神妙な表情で心の内を述べる。
(お父様の娘である私は、皆さんに恨まれて当然だわ……)

 外の世界を、初めて知ってしまった現在。
 迫る獣人たちを、ヒトがこの地で闘い、傷つけながら。
 視えない先の不安を消そうと、あきらめずにいる。

 螺旋王の娘であり、第一王女である彼女にとって。
 その事実は、逃げられないもの。黙って見過ごすことができないもの。 

 負の感情を抱く彼女に、シモンは論弁をする。

「……ニアを憎んでいないよ。
 兄貴は、憎しみで闘っていない……気がするんだ」

 照らす太陽が、彼の頭を焼きつけるよう。

「うまく言えないけど……。
 兄貴は、どんなに危険な目に遭っても……いつも笑っていた。
 何ていうか、兄貴は……その……」

「“底なしの馬鹿”だったのよ。カミナは」
 少年の隣には、手すりに座る赤毛の女がいた。
 にこやかになる彼女に、ニアは目を向けていた。


 地下の村から脱出しようとしたシモンだったが、大地震により絶望に浸っていた。
 地に埋もれ、閉じ込められ、彼はあきらめていた――たった一人を除いては。

「前に進めよっ!」 サングラスの青年が、仲間たちを蹴り上げていた。
 そのやんちゃぶりに、シモンは迷惑そうになりつつも、黙々と穴を掘っていた。
 ゴーグルの光が、岩を照らしては、彼のドリルで穴を掘り続ける。
 そんな、繰り返しであった。

 カミナは笑いながら、シモンたちを励まし、先を急ぐよう促す。
 少年のドリルを持つ手に、震えが止まっていた。
 恐怖を打ち消す力が、カミナが持っていた。


「夢中になって掘ると、土や岩の声が聞こえるんだ。
 “ここが柔らかいよ。こっちを掘ってごらん”って。
 おれはその声に導いて、穴を掘るだけだ」

 シモンは懐かしむよう語り、そして、無表情になって語る。

「もし、あそこであきらめていたら――今頃、おれたちは死んでいた。
 助かったのは、兄貴のおかげだよ。兄貴がいなければ、何もできなかった。
 あきらめていなかったんだ。いつも、そうだった――」

 さらに影を落とし、彼は憂鬱になる。

「兄貴がいなければ、おれは何もできない……。
 だから、おれは……兄貴の分まで頑張って生きるしかないんだ……。
 兄貴になって、兄貴のように、がむしゃらに……」

「それは、違います」 ニアが即、否定をした。
 身振りをしながら、彼を励ます。

「シモンは一人で、私を助けたのではありませんか。
 シモンは、一人でも大丈夫です。
 なぜ、兄貴というヒトに、こだわるのですか?」

 首をかしげるニアに、少年は目を逸らす。
「ニアは……兄貴のことを知らないから」

「“いないヒト”を知ることはできません。
 でも、シモンは、“いないヒト”を頼ることができないはず――」

「あんたに、シモンの気持ちがわかるはずがないでしょうっ!
 カミナのことを知らないあんたにっ!」

 彼女の静かなる説教に、ヨーコが激情交じりの怒りをぶつけていた。
 端正な顔立ちが歪み、彼女の両腕を掴んでいた。
 力いっぱいに込められ、彼女は痛みを耐えていた。



 09.騙すか騙されるかは選択であるが、
 第三の道があると信じる者は自分を欺いているに過ぎない。

≪ご無事、でしたか? ニア姫様≫
 アディーネと口裂けガンメンの、二重低音声。
 ニアは彼女を見上げ――気丈に振る舞う。

「アディーネ、教えなさい。
 お前たちは、この地上で、人間たちを苦しめるようなことをしているのですか?」

 口裂けガンメンのボディが、天の光で煌めいた。
 一歩、進み出ると、ニアが陰で覆われていく。
 突風が銀髪をなびかせ、ガンメンの中からアディーネが登場した。

 肩を露出させた、眼帯の女。
 ひざまつき、紅色のドレスがひらりと舞う。

「おっしゃる通りです、ニア姫様。
 地上の人間どもを皆殺しにするのは、私たちの任務です」

 ニアは怒りもせず、平常心で、冷静に問い質す。
「――お父様が、お前たちに命じたのですか?」

「はい」 アディーネの即答。両目を閉じ、笑みを浮かべていた。
 彼女の応答に、ニアの顔が険しくなる。

「お前はそのことに、何の疑いを持たなかったのですかっ!?」
 疑念に含む、激情。疑問を持たない彼女への怒り。

「疑い? はーーて? 人間などそこらの虫けらと同然。すなわち、下等なもの。
 どれだけ死のうが、苦しいだろうが、いちいち気にかけることはござろう?」

 馬鹿にしたかのような風潮。己らが上だと見せつける、誇りと位。
 アディーネにとっては、人間という生き物は、邪魔な存在でしかならない。

「信じられないっ……!」 ニアは目を見開き、それから、胸を当てて訴える。

「お父様と話してみますっ!
 アディーネよっ! 私をお父様の元へ連れて行きなさいっ!」

 片腕を広げ、命令を下す姫君。銀河の如く輝く瞳は、内なる熱意があった。
 真っ直ぐ見据える彼女に、アディーネの表情が変化した。
 露骨な顔となり、悪態をつける。

「うっぜええええええんだよっ! てめえで勝手にいきやがれええええっ!」
 完全に敬語を捨て、表情を歪ませた。憎しみを前面に押し出す、四天王の女。

「……何ですってっ……!?」 驚愕するニアに、彼女は前のめりになった。
 至近距離となり、面向かって、憎々しげに吐き捨てる。

「まだ、わからないのかい? あんたに、教えてやるよっ!
 あんたは、お姫様じゃねえんだっ! 螺旋王に、棄てられたんだよおっ!」

 その場で聞いていた、大グレン団の仲間たちの顔つきが凍りついていた。
 立ち尽くし、茫然としたニアを、見つめるしかなかった。


(棄てられた――!?) ニアを凝視したシモンの脳裏に焼きつく、数々の箱たち。
 ゴミの山と化した崖の底。土砂降りの雨の中にて、箱に眠る銀髪の少女。
 花に囲まれ、幸せそうに眠る彼女を――。

(……もし、おれが見つけていなければ、ニアはっ……!?)
 硬直して動かない、螺旋王の娘。その彼女が、父親に棄てられた事実。
 シモンは、彼女のことが気がかりであった。

 スクラップ状態となったラガンの元へ飛び出し、その中へ体を突っ込む。

「ラガン! 動けっ! 動いてくれええっ!」
 鍵穴に、ペンダントトップのドリルを回しても、作動をせず。

「どうしてだよっ! どうしてだああああっ! くそおおおおおおっ!」
 シモンは苛立ち、焦りの声が生まれていた。



 17.弱者は常に正義と平等を欲するものだが、強者はそのどちらも意に介さない。

「何をやったが知らないけど、虫けらともども、殺してやるっ!」
 アディーネの宣戦布告に、ニアは哀しみの表情をして。
 
「……棄てられた……殺す……私をっ……!?」
 小さな胸が、ちくりと痛んだ。衝撃のあまり、彼女は影を落として。

「……お父様が、そのように言ったのですか?」
 信じられない想いなのか。アディーネに、再び問い質していた。
 負の感情を抱く姫君に、彼女は勝ち誇った笑みをし、優劣に浸る。

「ああ。言ったさ。何度も言ってやる。
 てめえは、父親に棄てられたんだよ」

 蛇の如く、絡みつく眼差し。愉悦になる瞳の奥。

「嘘ですっ! お父様は、そのようなことをいたしませんっ!」
 信じきれないニアに、アディーネはベロを出し、リンチをする。

「一生、そう思ってなっ!
 てめえは人間どもと、あの世で送り届けてやるのさっ!」

「……あなたも、私を憎むのですか?」
 ニアの念押しに、アディーネは嘲りに近い声を出す。

「憎い? そんなことはどうでも良い」
 彼女は口裂けガンメンへ戻り、翼を閉じ始めた。
 巨大サソリへ変形し、その両端のハサミが、ニアを羽交い絞めにしようとする。

《私は螺旋王が殺せと命じられたから、そうするまでさっ!》
「ただ、命令されたからといって、私を殺すのですかっ!?」

 狙われていても。動じることをせず。
 アディーネを見ては、ニアはめげずに立ち向かう。

《あったり前だろうがっ!》 迷いなく、きっぱりと答える四天王の女。

「では、お父様が死になさいと言えば、死ぬのですかっ!?」
 ニアはそんな彼女を睨み据え、質疑を問うた。

「うっ……!」 コックピットの中にいる彼女はその問いに、つまらせていた。
 唇を噛みしめ、何も言えずにいるところに、ニアの反撃が来る。

「あなたは、間違っていますっ!」 口裂けガンメンを指さし、堂々と立ち阻む。
 勇士ありき姫君の、正当なる義。海賊船の操縦の方向へと、反対側の腕を広げる。

「あの人たちは、何も悪いことをしていませんっ!
 ただ、この地上で、静かに暮らしたいだけなのですっ!
 理由もなく殺されて、良いはずがありませんっ!」

 ニアの様子を窺っていた、大グレン団の仲間たちが、静かに聞き入っていた。
 一人一人が、過去のことを振り返っては、感傷に浸り――想い描く。

《奴らは、我々の仲間を殺したんだよっ! 理由なら、それで充分だろうがっ!》 
 納得いかず、憤慨をしているアディーネ。
 彼女が一番、尊敬していた上司。彼を殺された恨みは、計り知れない。
 
「いいえ……。 いいえ、違いますっ! それも、違いますっ!
 彼らも、兄貴というヒトを失いましたっ! そして、深く傷ついたのですっ!
 そうです……。 ヒトが死ぬということは、そういうことなのですっ!
 誰かが哀しみ……傷つくのですっ!」

 勘ぶり、張り裂けぶ声。ニアの悲痛の声。
 
「それなのに、お互いに傷つけ合うなんて――。
 そんなのおかしいと思いませんかっ!?」

 原因と結果を、彼女なりに解き出し、口裂けガンメンに指をつきつけた。
 信念と意志が、彼女自身から溢れ出しているかのようだった。



 16.そう、手段の悪を目的の清らかさで正すのです。

 牢屋の岩を掘り続ける、ゴーグル少年。
 点灯する青白き灯りが、黙々と作業をする彼を映す。

 ざわつき、あきらめた声色が飛び交う中で、彼はペンダントトップでかき分けていた。
 きらきらと落下していく、岩の砂。徐々に山になっていく様。
 その光景に、大グレン団の仲間たちは、しだいに口を閉ざした。

 夢中になり、ひたすら岩を掘っていくシモン。
 ペンダントトップのドリルが、緑のシグナルを引き起こしてきた。
 大きく点滅するそれに、シモンは、岩の奥へと突っ込んでいく。

 めげずに挑む彼を、ヨーコは見惚れていた。
 そして、両目を閉じ――口元を緩めた。

「そういうことか……」 「え?」
 キタンの怪訝そうな表情に対し、彼女は懐かしむように。

「――前に、カミナが言ってた。
 “いつも、俺を救ってくれたのは、あいつだ。
 最後まで、あきらめずにいたのは、あいつなんだ”って」


 星々の下。グレンの機体の上で、カミナは居座っていた。
 その背中を見つめるヨーコに、彼は自嘲めいた笑みをする。

「……自信がなかった。間違った方向に来てると思い、焦った……。
 親父に行けて、何で俺に行けねえんだ。正直……強がりだった」

 俯き、複雑そうな面持ちになり、情けなさを表面に出す声で。

「皆、弱音を吐いて、穴を掘るのをやめた。
 それ以上、どうすることもできなかった……。
 でも、シモンは、黙々と掘り続けた。俺の強がりを支えてくれた……。
 最後に大岩を砕いたのは……一筋の導きだった」

 夜空を見上げ、カミナは誇らしげに答える。

「運が良かったんだ。俺は運と、それを導き出してくれたシモンを信じる」
 気高き、全うに生きる男は、弟分を愛してやまない。
 そんな彼の横顔に、ヨーコの心に羨ましさが芽生えた。


「弱音を吐きそうになったとき、自信がなくなりそうになったとき。
 あの日、こつこつと掘ってきたシモンの背中を思い出す。
 “あの背中に笑われねえ男になる”。カミナはそう思ってたんだって」

 愛おしそうに、カミナのことを想い浮かべながら、彼女は真実を打ち明けた。
 キタンは息を吐き、弱弱しく述べる。

「……意外だな」 「あたしも意外だった……」
 汚れきったシモンの背に、二人は尊敬と羨望の眼差しを向けていた。
 それを知らず、彼は暗闇の中、無言で穴を掘り続ける。

“良いか、シモン。忘れるな。
 お前を信じろ。俺を信じるお前でもない。
 お前が信じる俺でもない。お前を信じる――”

「お前を信じろっ!」 過去の兄貴分のメッセージを、受け応える弟分。
 ペンダントトップを回した途端、ラガンが飛び出してきた。
 目の前に現れた相棒の名を、シモンは期待するように呼ぶ。

「ラガン!」 呼び声に応え、ラガンの双眼が眩き光を放った。



 05.天才は世界を自分の内から作り上げ
 英雄は世界を自分の内へと作り入れる

 ドリルを突き上げ、ニアの背中の縄を切っていく。
 解放され、彼女は振り返ると、天井を串刺す小型ガンメンがいた。
 頭の中から、薄汚れたシモンの姿があった。

「ニア! 助けに来たよっ! おいでっ!」
 力強い、男の貌に、緊張の糸が解れた姫君。

「ふえええんっ! シモーーーーン!」
 目元から水分が浮かび、頬を伝い、少年の体へしがみついた。
 ニアの胸元が、彼の顔に引っついた。
 彼は真っ赤になりつつ、ラガンを操縦し、天井を突き抜けていく。

 青き空に、複数の雲が流れていく。
 ニアを膝の上に乗せ、シモンは笑顔になって。

「おれ、わかったよっ! ラガンが教えてくれたっ!」
 その瞳の奥に、希望が溢れる光を放っている。
 生気を取り戻し、勇気を持つものと変化して。

「……私もよ、シモン」 何度も浮かべる涙を、ニアは人差し指で拭い取る。
 目を落とすと、汚れきった両手があった。
 操縦かんを持つ甲の上を――彼女の色白い手が乗せられる。
 少年の手の熱さに、彼女による胸の内に秘めた想い。

(私は人形じゃないっ……!
 シモンに出会うために生まれた、女の子なのねっ……!)

 シモンにとって、ニアが大切な人であるように。
 ニアにとって大切な人が、シモンであるように――。

 二人を乗せたラガンは、猛スピードで飛行していく。
 カスタムガンメンのゲンバーが、グレンの機体を噛み砕いている。
 動けず、飲み込まれていく様に、シモンの通信が来る。

≪ロシウ! 合体だっ!≫ 「は、はいっ!」
 ロシウは無我夢中で、ゲンバーから脱出をした。
 天を照らす小型ガンメンが、グレンと合体し、一つになっていく。

 グレンラガンとなった機体の顔から、シモンが登場した。
 突風で流されるのを構わず、彼は自分に言い聞かせる。

「――兄貴は死んだ。もう、いないっ!
 だけど、おれの背中に、この胸にっ! 一つとなって、生き続けているっ!」

「でええええええええっ!?」
 ゲンバーのコックピットにいるグアームは、鼻水を垂らし、恐怖に満ちている。

 シモンは天を指さし、堂々と熱き想いをぶつける。

「穴を掘るなら、天を突くっ! 墓穴を掘っても、掘り抜けてっ!
 突き抜けたなら、おれの勝ちっ!」

「……は? あんさん、何を言っている……?」
 耳にしたグアームの目が、点となっていた。
 かっこいい登場シーンのはずが、迷言のおかげで、台無しになっている。

 その場にいた大グレン団の仲間たちは、彼の行動に目を奪われている。
 その中の一人、リーロンは何度も頷く。

「そうよ。あんたは、それでこそ――カミナの弟分よ。
 やっと、取り戻したわね。シモン」

 腕を組みつつ、親のような目線で、シモンを見つめていた。
 彼はいかつい顔で、ゲンバーに刃向う。

「おれを誰だと思っている? おれはシモンだ。
 カミナの兄貴なんかじゃない」

 ゴーグルをかけ、自分の想いをさらけ出す。

「おれは、おれだああああああああああっ!
 おれは、穴掘りシモンだああああああああっ!」

 ラガンへ戻り、拳を海賊船へ突き出す。
 吹き飛ばされていくゲンバーの手足に、二つの金属カッターが拘束する。

 シモンの脳裏に、様々なカミナが存在していた。
 不敵に笑い、時に怒り、最後は助言をする心優しき――。

「兄貴の想いは、おれの中にあるううううううっ!」
 雫が零れ落ちるのを構わず、ゲンバーをきつく睨みつけて。

「必殺!」 シンクロする内部。心臓の如く、破裂していく様。
 生命力溢れる、強き翠のゲージ。

「ギガ……ドリル……ブレイクウウウウウウウウ!」
 二段、三段と倍増していく強大なるドリル。
 グレンラガンよりも高く、覆い尽くしそうな権力。
 一つとなり、一直線に突き進んでいく。

 ゲンバーの腹部を貫通し、大爆発がしていった。
 一部のガンメンの欠片が、ぱらぱらと振ってくる。

 それを眺めたシモンに、ニアは寄り添っていた。
 照れ臭いのか。彼の頬が、ほんのりと染まっていた。 
【 2017/09/24 (Sun) 】 お礼小説 | TB(-) | CM(0)
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プロフィール

両性こたつむり

Author:両性こたつむり
「君が望む世界詩」の管理人です。
ロマサガ2、ダイ大などの二次小説を書いていますが、FTやSFなどのオリジナル小説も書いております。

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